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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

三

彼はその言葉を、瑠璃子に投げ付けるように云った。

が、その投げ付けたつもりの言葉の裡に、みじめな哀願の調子が、アリ/\と響いていた。

青年の哀願の調子を跳ね付けるように、瑠璃子の言葉は、冷たく無情だった。

「一昨日の晩のお話のお返事を、妾今夜致そうと思いますの。」

風が、少し出た故だろう、冷たい噴水の飛沫が三人の上に降りかゝって来た。

三

瑠璃子の言葉は、これから判決文を読み上げようとする裁判長の言葉のように、峻厳であった。

青年は瑠璃子の言葉を聴くと、もう黙ってはいられなかった。『抜く抜く』と云う冗談が、本当の白刃になったように、彼はもうそれを真正面から受止める外はなかった。

「奥さん、貴女は何を仰しゃるのです。貴女は、お約束をお忘れになったのですか。あれほど僕がお願いしたお約束をお忘れになったのですか。」

美奈子が、真中にいることも、もうスッカリ忘れたように、青年は我を忘れて激昂した。興奮に湧き立った温かい呼吸が、美奈子の冷い頬に、吐き付けられた。

「お約束? お約束を忘れないからこそ、今夜お返事すると云っているのじゃありませんか。」

「何! 何! 何と仰しゃるのです。