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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
十二
その煙は、故国に向って行く心を一層切に彼の身に感じさせた。この船の最終に行き着くところは、神戸だ。そう考えると、心を強く刺戟するいろいろさまざまなものが国の方で彼を待受けているように思われて来る。再び故国を見得るということは、彼に取って実に嬉しいことでもあり、心配なことでもあった。
五月の雨が濁った波の上へ来た。岸本は側へ来て立つ牧野と並んで、二人で甲板の上から海を眺めて行った。
十二
一昼夜に三百十五六浬を駛る快い速力で、岸本を乗せた船はドバアの海峡を通り越して行った。航海の五日目には、英吉利沿岸の白く光る崖も遠く後方になった。早や何方を向いても陸というものを見ることの無いような、青い深い大海の真中へ出て行った。
「この船に乗ってしまえば、もう半分国へ帰ったようなものですよ――」
牧野は思出したように、折に触れてそれを岸本に言った。船は定期の客船としてより寧ろ戦時に際しての貨物船と言うべき形で、三方の甲板に分れた客全体の頭数から言っても極少い時であった。牧野は岸本が後方の甲板の上に毎日見る唯一人の同胞の客で、他はいずれも英吉利人のみであった。それも僅に男女を合せて七人の殖民地行の旅行者を数えるに過ぎなかった。