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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

父と子

一

父と子

一

『またお父様と兄様の争いが始まっている。』そう思いながら、瑠璃子は読みかけていたツルゲネフの『父と子』の英訳の頁を、閉じながら、段々高まって行く父の声に耳を傾けた。

『父と子』の争い、もっと広い言葉で云えば旧時代と新時代との争い、旧思想と新思想との争い、それは十九世紀後半の露西亜や西欧諸国丈の悩みではなかった。それは、一種の伝染病として、何時の間にか、日本の上下の家庭にも、侵入しているのだった。

五六十になる老人の生活目標と、二十年代の青年の生活目標とは、雪と炭のように違っている。一方が北を指せば、一方は西を指している。老人が『山』と云っても、青年は『川』とは答えない。それだのに、老人は自分の握っている権力で、父としての権力や、支配者としての権力や、上長者としての権力で、青年を束縛しようとする。西へ行きたがっている者を、自分と同じ方向の、北へ連れて行こうとする。其処から、色々な家庭悲劇が生れる。

瑠璃子は、父の心持も判った。兄の心持も判った。父の時代に生れ、父のような境遇に育ったものが、父のような心持になり、父のような目的のために戦うのは、当然であるように想われた。