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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
額の所へ擦り傷の出来た彼の顔色は、凡ての血の色を無くしていた。彼はオズ/\車内をのぞき込んだ。
「何処もお負傷はありませんか。お負傷はありませんか。」
「馬鹿! 負傷どころじゃない。大変だぞ。」と、信一郎は怒鳴りつけずにはいられなかった。彼は運転手の放胆な操縦が、此の惨禍の主なる原因であることを、信じたからであった。
「はっはっ。」と運転手は恐れ入ったような声を出しながら、窓にかけている両手をブル/\顫わせていた。
「君! 君! 気を確にしたまえ。」
信一郎は懸命な声で青年の意識を呼び返そうとした。が、彼は低い、ともすれば、絶えはてそうなうめき声を続けている丈であった。
口から流れている血の筋は、何時の間にか、段々太くなっていた。右の頬が見る間に脹れふくらんで来るのだった。信一郎は、ボンヤリつッ立っている運転手を、再び叱り付けた。
「おい! 早く小田原へ引返すのだ。全速力で、早く手当をしないと助からないのだぞ。」
運転手は、夢から醒めたように、運転手席に着いた。が、発動機の壊れている上に、前方の車軸までが曲っているらしい自動車は、一寸だって動かなかった。
「駄目です。