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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

護りの騎士

一

が、自動車が英国大使館前の桜並樹の樹下闇を縫うている時だった。彼女の面には、父の危篤を憂うるような表情は、痕も止めていなかった。人を思う通に、弄んだ妖女の顔に見るような、必死な薄笑いが、その高貴な面に宿っていた。

護りの騎士

一

名ばかりの妻、これは瑠璃子が最初考えていたように、生易しいことではなかった。彼女は、自分の操を守るために、あらゆる手段と謀計とを廻らさねばならなかった。

結婚後暫らくは、父の容体を口実に、瑠璃子は荘田の家に帰って行かなかった。勝平は毎日のように、瑠璃子を訪れた。日に依っては、午前午後の二回に、此の花嫁の顔を見ねば気が済まぬらしかった。

彼は訪問の度毎に、瑠璃子の歓心を買うために、高価な贈物を用意することを、忘れなかった。

それが、ある時は金剛石入りの指輪だった。ある時は、白金の腕時計だった。ある時は、真珠の頸飾だった。瑠璃子は、そうした贈物を、子供が玩具を貰うときのように、無邪気に何の感謝なしに受取った。

が、父の容体を口実に、いつまでも、実家に止まることは、許されなかった。それは、事情が許さないばかりでなく、彼女の自尊心が許さなかった。