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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
」
「そう言って下さると、妾本当に嬉しゅうございますわ。」
そう云いながら、瑠璃子は勝平に近づいて、肥った胸に、その美しい顔を埋めるような容子をした。勝平は、心の底から感激してしまった。
「ゆっくりと行っておいで、向うへ行ったら、電話で容体を知らして呉れるのだよ。」
「直ぐお知らせしますわ。でも、此方から訊ねて下さると困りますのよ。父は、荘田へは決して知らせてはならない。大切な結婚の当夜だから、死んでも知らしてはならないと申しているそうでございますから。」
「うむよし/\。じゃ、よく介抱して上げるのだよ。出来る丈の手当をして上げるのだよ。」
自動車の用意は、直ぐ整った。
「容体がよろしかったら、今晩中に帰って参りますわ。悪かったら、明日になりましても御免あそばしませ。」
瑠璃子は、自動車の窓から、親しそうに勝平を見返った。
「もう遅いから、今宵は帰って来なくってもいゝよ。明日は、俺が容子を見に行って上げるから。」
勝平は、もういつの間にか、親切な溺愛する夫になり切ってしまっていた。
「そう。それは有難うございますわ。」
彼女は、爽かな声を残しながら、戸外の闇に滑り入った。