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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

『盗賊!』最初勝平は、そう叫ぼうかとさえ思ったが、彼の四十男に相当した冷静が彼の口を制したが、その次ぎに、ムラ/\と彼の心を閉したものは、漠然たる嫉妬だった。一人の男性が、妻の寝室の扉の前に立っている。それだけで、勝平の心を狂わすのに十分だった。

彼は、握りしめた拳を、顫わしながら、必死になって、一歩々々扉に近づいた。が、相手は気味の悪いほど、冷静にピクリとも動かない。勝平が、最後の勇気を鼓して、相手の胸倉を掴みながら、低く、

「誰だ!」と、叱した時、相手は勝平の顔を見て、ニヤリと笑った。それは紛れもなく勝彦だったのである。

自分の子の卑しい笑い顔を見たときに、剛愎な勝平も、ガンと鉄槌で殴られたように思った。言い現し方もないような不快な、あさましいと云った感じが、彼の胸の裡に一杯になった。自分の子があさましかった。が、あさましいのは、自分の子丈けではなかった。もっと、あさましいのは、自分自身であったのだ。

「お前! 何をしているのだ! 茲で。」

勝平は、低くうめくように訊いた。が、それは勝彦に訊いているのではなく、自分自身に訊いているようにも思われた。