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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

海は頻りに轟々と吼え狂った。波は岸を超え、常には干乾びた砂地を走って、別荘の土堤の根元まで押し寄せた。

「潮が満ちて来ると、もっと波がひどくなるかも知れねえぞ!」

海の模様を見るために出ていた、別荘番の老爺は、漆のように暗い戸外から帰って来ると、不安らしく呟いた。

「まさか、此間のような大暴風雨にはなりますまいね。」

女中も、それに釣り込まれたように、オド/\しながら訊いた。皆の頭に、まだ一月にもならない十月一日の暴風雨の記憶がマザ/\と残っていた。それは、東京の深川本所に大海嘯を起して、多くの人命を奪ったばかりでなく、湘南各地の別荘にも、可なりヒドイ惨害を蒙らせたのであった。

「まさか先度のような大暴風雨にはなるまいかと思うが、時刻も風の方向もよく似ているでなあ!」

老爺は、心なしか瑠璃子達を脅すように、首を傾げた。

夜に入ってから、間もなく雨戸を打つ雨の音が、ボツリ/\と聞え出したかと思うと、それが忽ち盆を覆すような大雨となってしまった。天地を洗い流すような雨の音が、瑠璃子達の心を一層不安に充たしめた。

恐ろしい風が、グラ/\と家を吹き揺すったかと思う途端に、電燈がふっと消えてしまった。