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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
」
瑠璃子は、相手の脅を軽く受け流すように、嫣然と笑った。
「あゝ、貴女のその笑顔じゃ。それは俺を悩ますと同時に、嘲けり恥しめ罵しっているのじゃ。あゝ俺は貴女のその笑顔に堪えない。俺は貴女のその笑顔を、初はどんなに楽しんでいたか分らないが、だん/\見ていると、貴女のその美しい笑顔の皮一つ下には、俺に対する憎悪と嘲笑とが、一杯に充ちているのだ。貴女の笑顔ほど皮肉なものはない。貴女の笑顔ほど、俺の心を突き刺すものはない。貴女は、その笑顔で俺を悩まし殺そうとしているのだ。いや、俺ばかりじゃない! あの馬鹿の勝彦をまで悩ましておるのじゃ。」
勝平の態度には、愈々乱酔の萌が見えていた。彼の眸は、怪しい輝きを帯び、狂人か何かのように瑠璃子をジロ/\と見詰めていた。
風も雨も、海岸の此一角に、その全力を蒐めたかのように、益々吹き荒び降り増った。が瑠璃子は人と人との必死の戦いのために、そうした暴風雨の音をも、聞き流すことが出来た。
「疑心暗鬼と云うことがございますね。貴君のは、それですよ。妾を疑ってかかるから、妾の笑顔迄が、夜叉の面か何かのように見えるのでございますよ。