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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

美奈子は、母が青年を連れて行くことを中止したのではないかとさえ思った。そう思うと美奈子は、失望したような、何となく物足りないような心持になった。

自動車が、日比谷公園の傍のお濠端を走っている時だった。美奈子は、やっと思い切って母に訊いて見た。

「あの、学生の方とかをお連れするのじゃなかったの?」

瑠璃子は、初めて気が付いたように云った。

「そう/\。あの方を美奈さんに紹介して置くのだったわ。貴女まだ御存じないのでしょう。」

「はい! 存じませんわ。」

「学習院の方よ。時々制服を着ていらっしゃることがあってよ。気が付かない?」

「いゝえ! 一度もお目にかゝったことありませんわ。」

「青木さんと云う方よ。」

母は何気ないように云った。

「青木さん!」美奈子は一寸駭いたように云った。「その方は此間、亡くなられたのではございませんの。」

美奈子も、母の男性のお友達の一人なる青木某が、横死したと云うことは、薄々知っていた。

「いゝえ! あの方の弟さんよ。兄さんは、帝大の文科にいらしったのよ。」

茲まで聴いたとき美奈子にはもう凡てが、判っていた。此の旅行の同伴者が、何人であるかがもうハッキリと判った。