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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
七
」
青年は、初めて親しそうに、美奈子に口を利いた。
「はい、お顔丈は存じていますの。」
美奈子は、口の裡で呟くように答えた。が、青年から親しく口を利かれて見ると、美奈子の寂しく傷いていた心は、緩和薬をでも、塗られたようになごんでいた。今まで、恐ろしく寂しく考えられていた避暑地生活に、一道の微光が漂って来たように思われた。
七
それから汽車が、国府津へ着くまで、青年は美奈子に、幾度も言葉をかけた。平素妹を相手にしていると見えて、その言葉には、女性――殊に年下の女性に対する親しみが、自然に籠っていた。青年の一言々々は、美奈子のこじれかかろうとした胸を春風のように、撫でさするのであった。美奈子は最初陥っていた不快な感情から、いつの間にか、救われていた。自分が、妙にひがんで、嫉妬に似た感情を持っていたことを、はしたないとさえ思い始めていた。
国府津へ着いたとき、もう美奈子は、また元の処女らしい、感情と表情とを取り返していた。
国府津のプラットフォームに降り立った時、瑠璃子は駆け寄った赤帽の一人に、命令した。
「あの、自動車を用意させておくれ!――そう、一台じゃ、窮屈だから――二台ね、宮の下まで行って呉れるように。