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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
二
口惜しさと、恨めしさと、絶望との涙が、止めどもなく頬を伝って流れ落ちた。自分が、心私かに想を寄せていた青年から、邪魔物扱いされていたことは、彼女の魂を蹂み躙ってしまうのに、十分だった。もう一刻も、止まっていることは出来なかった。逃げ出すために、母達に、見付けられようが、見付けられまいが、もうそんなことは問題ではなかった。そんなことは、もう気にならないほど、彼女の心は狂っていた。彼女は、どんなことがあろうとも、もう一秒も止まっていることは出来なかった。
彼女は、それでも物音を立てないように、そっと椅子から、立ち上った。立ち上った刹那から、脚がわな/\と顫えた。一歩踏み出そうとすると、全身の血が、悉く逆流を初めたように、身体がフラ/\とした。倒れようとするのをやっと支えた。最後の力を、振い起した。わなゝく足を支えて、芝生の上を、静に/\踏み占め、椅子から、十間ばかり離れた。彼女は、そこまでは、這うように、身体を沈ませながら辿ったが、其処に茂っている、夜の目には何とも付かない若い樹木の疎林へまで、辿り付くと、もう最後の辛抱をし尽したように、疎林の中を縫うように、母達のいる位置を、遠廻りしながら、ホテルの建物の方へと足を早めた。