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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
が、その扉を押し開いた刹那であった。
「おや!」戸外に、叫ぶ声がした。戸外からも、扉を開けようとした人が、思わず内部から開いたので、駭いて発した声だった。美奈子は、直ぐ、そう叫んだ人と、顔を面して立たなければならなかった。それは、正しく母だった。母の後に、寄り添うように立っているのは、もとより彼の青年だった。
「美奈さんじゃないの!」
母は、可なり駭いていた。狼狽していたと云ってもよかった。美奈子は、全身の血が、凍ってしまったように、じっと身体を縮ませながら、立っていた。
「何うしたの? こんなに遅く?」
青年との会話には、あんな冷静を保っていた母が、別人ではないかと思うほど、色を変えていた。
美奈子が、黙っていると、母は益々気遣わしげに云った。
「一体何うしたの、こんなに遅く、着物を着換えて、手提なんか持って。」
四
母に問い詰められて、美奈子は、漸くその重い唇を開いた。
「あの、手紙を出しに、郵便局まで行こうと思っていましたの。」
彼女は、生れて最初の嘘を、ついてしまった。彼女の、蒼い顫いを帯びた顔色を見れば、誰が彼女が郵便局へ行くことを、信ずることが出来よう。