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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

七

どうか、美奈さん。妾の懺悔を聴いて下さい。」

快活な、泣き言などは、ちっとも云ったことのない母の声が、悲しみに湿んでいた。

七

「青木さんなんかに、妾初めから、何の興味も持っていなかったのです。青木さんを箱根へ連れて来たのなども、妾のホンの意地からなのです。ある別な男の方に対する妾の意地からなのです。ある男の方が、妾に、青木さん丈けは、誘惑して呉れては困ると言ったような、おせっかいなことを言ったものですから、妾はつい反抗的に、意地であの方を箱根へ連れて来たくなったのです。外ながら、そのおせっかいな人に思い知らせて、やりたくなったのです。美奈子さん、それが妾の性分なのです。今までの妾の生活、貴女のお家へ来たことなども、みんな妾のそう云った性分が、妾を動かしたのです。」

母は何時になく、しんみりとした沈んだ調子になっていた。短い沈黙の後で、母は再び口を開いた。

「それは、自分でも何うともすることが出来ない性分です。誰かから抑えられると、その二倍も三倍もの烈しさで、跳返したいような気になるのです。それが、妾の性格の致命的な欠陥かも知れません。妾は自分のそうした性分のために、自分の一生を犠牲にしたのではないかとさえ、此頃考えているのです。