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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
四
兄は死際に何と云いました?」
青年は、昂奮し焦った。
「いや、それに就いて、貴君にゆっくりお話したいと思っていたのです。茲じゃ、どうもお話しにくいですが、いかゞです僕の部屋へ。」
紳士は可なり落着いていた。
「貴君さえお差支えなけれや。」
「じゃ、僕の部屋へ来て下さい。丁度妻は、湯に入っていますので誰もいませんから。」
紳士の部屋は、階段を上ってから、左へ二番目の部屋だった。
紳士は、青年を自分の部屋に導くと、彼に椅子を勧めて、自分も青年と二尺と隔らずに相対して腰を降した。
「申し遅れました。僕は渥美と云うものですが。」
そう云って紳士は、改めて挨拶した。
「いや、実は避暑に出る前に、貴君に一度是非お目にかゝりたいと思っていたのです。貴君にお目にかけたいもの、貴君に申上げたいこともあったのです。それで、それとなく貴君のお宅へ電話をかけて、貴君の在否を探って見ると、意外にも宮の下へ来ていられると云うのです。それで、実は私は小涌谷の方へ行くつもりであったのですが、貴君にお目にかかれはしないかと云う希望があったものですから、二三日、此処へ宿って見る気になったのです。