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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

三

美奈子が、寝室を出て、居間の方にある卓上の電話を取り上げたときだった。彼女は、青年の寝室の扉が開かれて、其処に寝台が空しく横たわっているのを知った。

恐しい悲劇の実相が、彼女に判然と判った。

三

医者が来るまで、瑠璃子は恐ろしい苦痛に悶えていた。が、彼女はその苦痛を、じっと堪えていた。華奢な身体に、致命の傷を負いながら、彼女は悲鳴一つ揚げなかった。たゞ抑え切れない苦痛を、低いうめき声に洩しているだけであった。

美奈子の方が、却って逆上していた。彼女は、母の胸に縋りながら、

「お母様! しっかりして下さい。しっかりして下さい!」と、おろ/\叫んでいるだけだった。

その裡に、瑠璃子は、ふと閉していた眼を開いた。そして、異様な光を帯び初めた眸で、じっと美奈子を見詰めた。

「お母様! お母様! しっかりして下さい!」

美奈子は、泣き声で叫んだ。

「美奈さん!」

瑠璃子は、身体に残っている力を、振りしぼったような声を出した。

「わーたーし、わたし今度は、もう――駄目かも知れないわ。」

一語二語、腸から、しぼり出るような声だった。

「お母様! そんなことを! 大丈夫でございますわ、大丈夫でございますわ。