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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

」青年は靴の先で散り布いている落花を踏み躙りながら云った。

「父のは病気ですのよ。」女は、一寸美しい眉を落し「あんなに年が寄っても、道楽が止められないのですもの。」そう云った声は、一寸淋しかった。

「道楽じゃありませんよ。男子として、立派な仕事じゃありませんか。三十年来貴族院の闘将として藩閥政府と戦って来られたのですもの。」

青年は、女を慰めるように云った。が、先刻成金を攻撃したときほどの元気はなかった。二人は話が何時か、理に落ちて来た為だろう。孰ちらからともなく、黙ってしまった。青年は、他の一つの腰掛を、二三尺動かして来て、女と並んで腰をかけた。生あたゝかい晩春の微風が、襲って来た為だろう。花が頻りに散り始めた。

勝平は先刻から、幾度此の場を立ち去ろうと思ったか、分らなかった。が、自分に対する悪評を怖れて、コソ/\と逃げ去ることは、傲岸な彼の気性が許さなかった。張り裂けるような憤怒を、胸に抑えて、じっと青年の攻撃を聞いていたのであった。

彼は、つい十分ほど前まで、今日の園遊会に集まっている、凡ての人々は自分の金力に対する讃美者であると思っていた。讃美者ではなくとも、少くとも羨望者であると思っていた。