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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
殆ど、一尺にも足りない距離で見る青年の顔付は、愈々そのけ高さを加えているようであった。が、その顔は何うした原因であるかは知らないが、蒼白な血色を帯びている。二つの眸は、何かの悲しみのため力なく湿んでいるようにさえ思われた。
信一郎はなるべく相手の心持を擾すまいと思った。が、一方から考えると、同じ、自動車に二人切りで乗り合わしている以上、黙ったまゝ相対していることは、何だか窮屈で、かつは不自然であるようにも思われた。
「失礼ですが、今の汽車で来られたのですか。」
と、信一郎は漸く口を切った。会話のための会話として、判り切ったことを尋ねて見たのである。
「いや、此の前の上りで来たのです。」と、青年の答えは、少し意外だった。
「じゃ、東京からいらっしたんじゃないんですか。」
「そうです。三保の方へ行っていたのです。」
話しかけて見ると、青年は割合ハキ/\と、然し事務的な受け答をした。
「三保と云えば、三保の松原ですか。」
「そうです。彼処に一週間ばかりいましたが、飽きましたから。」
「やっぱり、御保養ですか。」
「いや保養と云う訳ではありませんが、どうも頭がわるくって。