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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
」
父は、品物が贋物であることに、何の疑いもないように笑った。
「いやそんな御心配は、御無用です。閣下のお手許に置いて置けば、日本銀行へ供託して置くより安全です、ハヽヽヽ。閣下のお口から、贋だと一言仰しゃって下さると当人も諦めが、付くものですから。」
相手に、そう如才なく云われると、父も断りかねたのであろう。口では、承諾の旨を答えなかったけれども、有耶無耶の裡に、預ることになってしまった。
その用事が、片付くと客は、取って付けたように、政局の話などを始めた、父は暫らくの間、興味の乗らないような合槌を打っていた。
客が、帰って行くとき、父は玄関へ送って出ながら、
「凡そ何時取りに来る?」と訊いた。やっぱり、軸物のことが少しは気になっているのだった。
「御覧になったら、ハガキででも、御一報を願えませんか、本当にお気に向いた時でよろしいのですから。当方は、少しも急ぎませんのですから。」
客は幾度も繰返しながら、帰って行った。応接室へ引き返した父は、瑠璃子を呼びながら、
「之を蔵って置け、俺の居間の押入へ。」と、命じた。が、瑠璃子が、父の云い付に従って、その長方形の風呂敷包を、取り上げようとした時だった。