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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

」

「あゝ恥しい。それを訊いて呉れるな! 俺はお前にも顔向けが出来ないのだ! 彼奴の恐ろしい罠に、手もなくかゝったのだ。あんな卑しい人間のかけた罠に、狐か狸かのように、手もなくかゝったのだ。恥しい! 自分で自分が厭になる!」

父は、座にも堪えないように、身悶えして口惜しがった。握っている拳がブル/\と顫えた。

「彼奴と仰しゃりますと、やっぱり荘田でございますか。荘田が、何をいたしましたのでございますか。」

瑠璃子も烈しい昂奮に、眼の色を変えながら、父に詰め寄って訊いた。

「今から考えると、見え透いた罠だったのだ。が、木下までが、俺を売ったかと思うと俺は此の胸が張り裂けるようになって来るのだ!」

父は、木下が眼前にでもいるように、前方を、きっと睨みながら、声はわな/\と顫えた。

「へえ! あの木下が、あの木下が。」と、瑠璃子も暫らくは茫然となった。

「金は、人の心を腐らすものだ。彼奴までが、十何年と云う長い間、目をかけて使ってやった彼奴迄が、金のために俺を売ったのだ。金のために、十数年来の旧知を捨てゝ、敵の犬になったのだ。それを思うと、俺は坐っても立ってもおられないのだ!」