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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

其処へ、小間使に案内されて、入って来たのは、杉野子爵だった。

「やあ! 荘田さん! 懸賞金はやっぱり私のものですよ。到頭、先方で白旗を上げましたよ、はゝゝゝ。」

「白旗をね、なるほど。はゝゝゝゝ。」荘田は、凱旋の将軍のように哄笑した。

「案外脆かったですね。」木下は傍から、合槌を打った。

「それがね。令嬢が、案外脆かったのですよ。お父様が、監獄へ行くかも知れないと聞いて、狼狽したらしいのです。父一人子一人の娘としては、無理はないとも思うのです。私の所へ、今朝そっと手紙を寄越したのです。父に対する告訴を取り下げた上に、唐沢家に対する債権を放棄して呉れるのなら荘田家へ輿入れしてもいゝと云うのです。」

「なるほど、うむ、なるほど。」

荘田は、血の臭を嗅いだ食人鬼のように、満足そうな微笑を浮べながら、肯いた。

「ところが、令嬢に註文があるのです。荘田君! お欣びなさい! 私に対する懸賞金は倍増にする必要がありますよ、令嬢の註文がこうなのです。同じ荘田家へ嫁ぐのなら、息子さんよりも、やっぱりお父様のお嫁になりたい。男性的な実業家の夫人として、社交界に立って見たいとこう云ってあるのです。