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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
美奈子は、二三度起き上ろうとするように、身体を悶えた後に、ぐったりと身体を、青い絨毯の上に横えた。絶え入るような悲鳴が続いて、明石縮らしい単衣の肩の辺に出来た赤黒い汚点が、見る見る裡に胸一面に拡がって行くのだった。
「美奈子! 気を確に持て! おい! 繃帯を持って来い! なければ白木綿だ! 近藤さんを呼べ! そうだ! 自動車を迎えにやれ! いなかったら、誰でもいゝ外科の博士を。そうだ! その前に、誰でもいゝから、近所の医者を呼んで来い! 早く、早く、早くだ!」
狼狽して、前後左右にたゞウロ/\する、召使の男女を荘田は声を枯して叱咤した。彼はそう云いながらも、右の掌で、娘の傷口を力一杯押えているのだった。
直也は、自分の放った弾丸が、思いがけない結果を生んだのを見ながら、彼は魂を奪われた人間のように、茫然として立っていた。色は土の如く蒼く、眼は死魚のそれのように光を失った。彼はまだ短銃を握ったまゝ、突っ立っていた。直也の父も、木下も、此の犯人の手から、短銃を奪い取ることさえ忘れていた。殊に、子爵の顔は子のそれよりも、血の気がなかった。彼は自分の罪が、ヒシ/\と胸に徹えて来るのを感じた。