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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

自分の野卑な、狡猾な行為が、子の上に覿面に報いて来たことが、恐ろしかった。彼は、子の短慮と暴行とを叱すべき言葉も、権威も持っていなかった。彼の身体を支えている足は、絶えずわな/\と顫えた。

荘田は、娘の肩口を繃帯で、幾重にもクルクルと、捲いてしまうと、やっと小康を得たように、室内へ帰って来た。その巨きい顔は殺気を帯びて物凄い相を示した。

「お蔭で傷は浅いです。可哀そうに、あれは大層親思いですから、あんな飛沫を喰うのです。」

彼は、氷のような薄笑いを含んで、直也の顔をマジ/\と見詰めながら云った。赤手にして一千万円を超ゆる暴富を、二三年の裡に、攫取した面魂が躍如として、その顔に動いた。

「いや、私は暴に報いるに、暴を以ってしません。たゞ、国の公正なる法律に、あなたの処分を委せる丈です。杉野さん! お気の毒ですが、御子息は直ぐ、警察の方へお引き渡ししますから、そのおつもりでいて下さい。おい警視庁の刑事課へ電話をかけるのだ。そして、殺人未遂の犯人があるから、直ぐ来て呉れと。いゝか。」

荘田は、冷然として、鉄の如く堅く冷かに、商品の註文をでもするような口調で、小間使に命じた。