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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
本当に、彼の結婚は嘘から出た真であった。彼は、妙にこじれてしまった意地から、相手を苦しめる為に、申込んだ結婚が、相手が思いの外に、脆かった為、手軽に実現したことが少しくすぐったいようにも思った。それと同時に、名門のたった一人の令嬢をさえ、自分の金の力で、到頭買い得たかと思うと、心の底からむら/\と湧く得意の情を押えることが出来なかった。
が、結婚の式場に列るまで、彼は瑠璃子を高価で購った装飾品のようにしか思っていなかった。五万円に近い大金を投じて、落藉した愛妓に対するほどの感情をも持っていなかった。『此のお嬢さん屹度むずがるに違いない。なに、むずかったって、高の知れた子供だ。ふゝん。』と云ったような気持で神聖なるべき式場に列った。
が、雪のように白い白紋綸子の振袖の上に目も覚むるような唐織錦の裲襠を被た瑠璃子の姿を見ると、彼は生れて初めて感じたような気高さと美しさに、打たれてしまって、神官が朗々と唱え上げる祝詞の言葉なども耳に入らぬほど、じっと瑠璃子の姿に、魅せられていた。その輪廓の正しい顔は凄いほど澄みわたって、神々しいと云ってもいゝような美しさが、勝平の不純な心持ちをさえ、浄めるようだった。