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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

式が、無事に終って、大神宮から帝国ホテルまでの目と鼻の距離を、初めて自動車に同乗したときに云い知れぬ嬉しさが、勝平の胸の中に、こみ上げて来た。彼は、どうかして、最初の言葉を掛けたかった。が、日頃傲岸不遜な、人を人とも思わない勝平であるにも拘わらず、話しかけようとする言葉が、一つ/\咽喉にからんでしまって、小娘か何かのように、その四十男の巨きい顔が、ほんの少しではあるが、赤らんだ。彼は、唐沢家をあんなにまで、迫害したことが、後悔された。瑠璃子が、自分のことを一体何う思っているだろうと、云うことが一番心配になり始めた。

式服を着換えて、今勝平の横に立っている瑠璃子は、前よりもっと美しかった。御所解模様を胸高に総縫にした黒縮緬の振袖が、そのスラリとした白皙の身体に、しっくりと似合っていた。勝平は、こうして若い美しい妻を得たことが、自分の生涯を彩る第一の幸福であるようにさえ思われた。今までは、彼の唯一つの誇は、金力であった。が、今はそれよりも、もっと誇っていゝものが、得られたようにさえ思った。

大臣を初め、政府の高官達が来る。実業家が来る。軍人が来る。