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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

妾達は、此の証文を火で焼いたように、これまでのいろいろな感情の行き違いを、火に焼いてしまおうと思いますの……ほゝゝゝ、火に焼く! その方がよろしゅうございますわ。」

「あゝそう/\、火に焼く、そうだ、後へ何も残さないと云うことだな。そりゃ結構だ。今までの事は、スッカリ無いものにして、お互に信頼し愛し合って行く。貴女が、その気でいて呉れゝば、こんな嬉しいことはない。」

そう云いながら、勝平は瑠璃子に最初の接吻をでも与えようとするように、その眸を異常に、輝かしながら、彼女の傍へ近よって来た。

そう云う相手の気勢を見ると、瑠璃子は何気ないように、元の椅子に帰りながら、端然たる様子に帰ってしまった。

その時に、扉が開いた。

「彼方の御用意が出来ましたから。」

女中は、淑やかにそう云った。

絶体絶命の時が迫って来たのだ。

「じゃ、瑠璃さん! 彼方へ行きましょう。古風に盃事をやるそうですから、はゝゝゝゝゝ。」

勝平が、卑しい肉に飢えた獣のように笑ったとき、遉に瑠璃子の顔は蒼ざめた。

が、彼女の態度は少しも乱れなかった。

「あの、一寸電話をかけたいと思いますの。父のその後の容体が気になりますから。