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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

もっと、こうして楽しみたいと思いますもの。何かが来ると云うことの方が、何かが来たと云うことよりも、どんなに楽しいか。それに妾本当はもっと処女でいたいのよ。ねえ、いいでしょう。妾のわが儘を、許して下さってもいゝでしょう!」

そう云う言葉と容子とには、溢れるような媚びがあった。そうした言葉を、聴いていると、勝平は、タジ/\となってしまって、一言でも逆うことは出来なかった。

が、その夜、勝平は自分一人寝室に入ってからも、若い妻のすべてが、彼の眼にも、鼻にも、耳にもこびり付いて離れなかった。眼の中には、彼女の柔い白い肉体が、人魚のように、艶めかしい媚態を作って、何時までも何時までも、浮んでいた。鼻には、彼女の肉体の持っている芳香が、ほのぼのと何時までも、漂っていた。耳には、そうだ! 彼女の快活な湿りのある声や、機智に富んだ言葉などが、何時までも何時までも消えなかった。

彼は、そうした妄想を去って、何うかして、眠りを得ようとした。が、彼が努力すれば努力するほど、眼も耳も冴えてしまった。おしまいには、見上げて居る天井に、幾つも/\妻の顔が、現れて、媚びのある微笑を送った。