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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
女は紛れもなき瑠璃子だった。而も彼女の白い、遠目にも、くっきりと白い手は、勝彦の肩、そうだ、肩よりも少し低い所へ、そっと後から当てられているのだった。
それを見たとき、勝平は煮えたぎっている湯を、飲まされたような、凄じい気持になっていた。ニヤリ/\と悦に入っているらしいわが子の顔が、アリ/\と目に見えるように思った。彼は、縁側から飛び降りて、わが子の顔を思うさま、殴り付けてやりたいような恐ろしい衝動を感じた。
が、それにも増して、瑠璃子の心持が、グッと胸に堪えて来た。昨夜の騒ぎを知らぬ筈がない、親子の間の、浅ましい情景を知らぬ筈がない。隣の部屋の美奈子さえ、眼を覚しているのに、瑠璃子が知らない筈はない。知っていながら、昨夜の今日勝彦をあんなに近づけている。
そう思うと、勝平は、瑠璃子の敵意を感ぜずにはいられなかった。そうだ! 自分が小娘として、つまらない油断や、約束をしたのが悪かったのだ。云わば降伏した敵将の娘を、妻にしているようなものである。美しい顔の下に、どんな害心を蔵しているかも知れない。
が、そう警戒はしながら、瑠璃子を愛する心は、少しも減じなかった。