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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

何時の間にか追い詰められたように、部屋の一方に、海に面した硝子戸の方へ、逃るゝ道のない硝子戸の方へ、瑠璃子は圧し付けられている自分を見出した。

其処で、追い詰められた牝鹿と獅子とのように、二人は暫らくは相対していた。

暴風雨は、少しも勢いを減じていなかった。岸を噛んで殺到する波濤の響が、前よりも、もっと恐ろしく聞えて来た。が、相争っている二人の耳には、波の音も風の音も聞えては来なかった。

「何をなさるのです。貴君は?」

勝平が、その堅肥りの巨い手を差し出そうとした時、瑠璃子は初めて声を出して叱した。

「何をしようと、俺の勝手だ。夫が妻を、生そうが殺そうが。」

勝平は、そう云いながら、再び猿臂を延して、瑠璃子の柔かな、やさ肩を掴もうとしたが、軽捷な彼女に、ひらりと身体を避けられると、酒に酔った足元は、ふら/\と二三歩蹌めいて、のめりそうになった。

「恥をお知りなさい! 恥を! 妻ではございましても奴隷ではありませんよ。暴力を振うなんて。」

彼女は、汚れた者を叱するように、吐き捨てるように云った。彼女の声は、遉にわな/\と顫えていた。

「なに! 恥を! 恥も何もあるものか、俺はもう獣になり切っているのじゃ。