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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

」

勝平は、そう云ったかと思うと前よりももっと烈しい勢で瑠璃子に迫った。こうしたあさましい人間の争いを、讃美するかのように、風は空中に凄じい歓声を挙げ続けている。

瑠璃子は、ふとその時護り刀のことを思い出した。こうした非常な場合には、それを抜き放って自分を護る外はない。が、そう思い付いたものの、それはトランクの底深く、蔵ってあるので、急場の今は、何の援けにもならなかった。

彼女は、最後の手段として、声を振り搾って女中を呼んだ。が、彼女の呼び声は、風雨の音に消されてしまって、台所の方からは、物音も聞えて来なかった。

瑠璃子が、愈窮したのを見ると、勝平は愈威丈高になった。彼は、獣そのまゝの形相を現していた。ほの暗い洋燈の光で、眼が物凄く光った。

「あれ!」と、瑠璃子が身を避けようとした時、勝平の強い腕は、彼女の弱い二の腕を、グッと握り占めていた。

「何をするのです。お放しなさい!」

彼女は必死になって、振りほどこうとした。が、強い把握は、容易に解けそうもなかった。

「何を! 何をするのです!」

瑠璃子は、死者狂いになって突き放した。が、突き放された勝平は、前よりも二倍の狂暴さで、再び瑠璃子に飛びかゝった。