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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

曲が、終りかけると、彼女は何人よりも、先に慎しい拍手を送った。

快い緊張から夢のように醒めながら、彼女は信一郎を顧みた。

「妹の方が、技巧は確ですけれども、どうも兄の方が、奔放で、自由で、それ丈天才的だと思いますのよ。」

「僕も同感です。」信一郎も、心からそう答えた。

「貴君、音楽お好き? ほゝゝゝ、わざ/\来て下さったのですもの、お好きに定っていますわね。」

彼女は、二度目に会ったばかりの信一郎に、少しの気兼もないように、話した。

「好きです。高等学校にいたときは、音楽会の会員だったのです。」

「ピアノお奏きになって?」

「簡単なバラッドや、マーチ位は奏けます。はゝゝゝゝ。」

「ピアノお持ちですか。」

「いいえ。」

「じゃ、妾の宅へ時々、奏きにいらっしゃいませ。誰も気の置ける人はいませんから。」

彼女は、薄気味の悪いほど、馴々しかった。その時に、壇上には、妹のアンナが立っていた。

「バラキレフの『イスラメイ』を演るのですね。随分難しいものを。」

そう云いながら、彼女は立ち上った。

「みんなが、妾を探しているようですから、失礼いたしますわ。会が終りましたら、階下の食堂でお茶を一緒に召上りませんか。