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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
英国のある近代劇の女主人公が、男が雲雀のように、多くの女と戯れることが出来るのなら、女だって雲雀のように、多くの男と戯れる権利があると申しておりますが、そうじゃございませんでしょうか。妾もそう思うことがございますのよ。」
夫人は、周囲の静けさを擾さないように、出来る丈信一郎の耳に口を寄せて語りつゞけた。夫人の温い薫るような呼吸が、信一郎のほてった頬を、柔かに撫でるごとに、信一郎は身体中が、溶けてしまいそうな魅力を感じた。
「でも、貴君なんか、そうした女性は、お好きじゃありませんでしょうね。」そう、信一郎の耳に、あたゝかく囁いて置きながら、夫人は顔を少し離して嫣然と笑って見せた。男の心を、掻き擾してしまうような媚が、そのスラリとした身体全体に動いた。
夫人の大胆な告白と、美しい媚のために、信一郎は、目が眩んだように、フラ/\としてしまった。美しい妖精に魅せられた少年のように、信一郎は顔を薄赤く、ほてらせながら、たゞ茫然と黙っていた。
夫人は、ひらりと身を躱すように、真面目なしんみりとした態度に帰っていた。
「でも、妾、こんな打ち解けたお話をするのは、貴君が初めてなのよ、文学や思想などに、理解のない方に、こんなお話をすると、直ぐ誤解されてしまうのですもの、妾、かねてから、貴君のようなお友達が欲しかったの、本当に