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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

そんな馬鹿な話があるものですか。芸術的小説は何時が来たって、芸術的小説ですよ。日本の作家でも、西鶴などの小説には、何時が来ても亡びない芸術的分子がありますよ。天才的な閃がありますよ。それに比べると、尾崎紅葉なんか、徹頭徹尾通俗小説ですよ。紅葉の考え方とか物の観方と云うものは、常識の範囲を、一歩も出ていないのですからね。たゞ、洗煉された常識に過ぎないのですよ。例えば『三人妻』など云う作品だって如何にも三人の妻の性格を描き分けてあるけれども、それが世間に有り触れた常識的型に過ぎないのですからね。紅葉を以て、明治時代の文学的常識を、代表させるのなら差支えないが、第一の文豪として、紅葉を推す位なら、むしろ露伴柳浪美妙、そんな人の方を僕は推したいね。」

三宅の語り終るのを待ち兼ねたように、小山男爵は、横から口を入れた。

「第一『金色夜叉』なんか、あんなに世間で読まれていると云うことが、通俗小説である第一の証拠だよ。万人向きの小説なんかに、碌なものがある訳はないからね。」

二人の、攻撃的な挑戦的な口調を聴いていると、信一郎もつい、ムカ/\となってしまった。瑠璃子夫人はと見ると、その平静な顔に、嗾かけるような微笑を湛えて、『貴君も負けないで、しっかりおやりなさい。