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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

』と、云うように信一郎の顔を見ていた。

「それは可笑しいですな。」

そう云いながら、信一郎は何処か貴族的な傲慢さが、漂うている小山男爵の顔をじっと見た。

「そんな暴論はありませんよ。広く読まれているのが、通俗小説の証拠ですって、そんな暴論はないと思いますね。そう云う議論をすれば、沙翁の戯曲だって、通俗戯曲だと云うことになるじゃありませんか。ホーマアの詩だって、ダンテの神曲だって、みんな広く読まれていると云う点で、通俗的作品と云うことになりそうですね。僕は、そうは思いませんよ。それと反対に、立派な芸術的作品ほど、時代が経てば、だん/\通俗化して行くのだと思うのですね。トルストイの作品が日本などでも段々通俗化して来たように、通俗化して行かない作品こそ、却って何かの欠陥があると思うのですね。御覧なさい! 馬琴でも西鶴でも、通俗化して行けばこそ、後代に伝わるのじゃありませんか。『金色夜叉』が通俗化しているからと云って、あの小説の芸術的価値を否定することは出来ませんよ。僕は芸術的に秀れていればこそ、民衆の教養が進むに従って、段々通俗化して行ったのだと思うのです。