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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

「宅の奥様のお手紙を持って参ったのです。何の御用事があるか私には分りません。返事を承わって来い! お帰になるまで、お待して返事を承わって来い! と、申し付けられましたので。」

運転手は、待っていることを、云い訳するように云った。

手紙を持って来たと聴くと、信一郎は可なり狼狽した。妻に、内密で、ある女性を訪問したことが露顕している上に、その女性から急な手紙を貰っている。そうしたことが、どんなに妻の幼い純な心を傷けるかと思うと、信一郎は顔の色が蒼くなるまで当惑した。彼は、妻に知られないように、手早く手紙を受け取ろうと思った。

「手紙! 手紙なら、早く出したまえ!」

信一郎は、低く可なり狼狽した調子でそう云った。

運転手が、何か云おうとする時に、夫の帰りを知った妻が、急いで玄関へ出て来た。彼女は、夫の顔を見ると、ニコ/\と嬉しそうに笑いながら、

「お手紙なら、此方にお預りしてありますのよ。」と、云いながら、薄桃色の瀟洒な封筒の手紙を差し出した。暢達な女文字が、半ば血迷っている信一郎の眼にも美しく映った。

面罵

一

妻から、荘田夫人の手紙を差し出されて見ると、信一郎は激しい羞恥と当惑とのために、顔がほてるように熱くなった。