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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

が、先刻は夫人に対する讃美と憧れの心で、胸を躍らしながら、が、今は夫人に対する反感と憤怒とで、心を狂わせながら。

取次ぎに出たものは、あの可愛い少年の代りに、十七ばかりの少女だった。

「奥様がお待ちかねでございます。さあ、どうかお上り下さいませ。」

信一郎は、それに会釈する丈の心の余裕もなかった。彼は黙々として、少女の後に従った。

少女は先刻の客間の方へ導かないで、玄関の広間から、直ぐ二階へ導く階段を上って行った。

「あの、お部屋の方にお通し申すように仰しゃっていましたから。」

信一郎が一寸躊躇するのを見ると、少女は振り返ってそう言った。

階段を昇り切った取っ付きの部屋が、夫人の居間だった。少女は軽く叩したが、内から応ずる気勢がしなかった。

「あら! いらっしゃらないのかしら。それではどうか、お入りになって、お待ち下さいませ。屹度、お化粧部屋の方にいらっしゃるのですから。」

そう云って、少女は扉を開けた。

信一郎は、おそる/\その華麗な室内に足を踏み入れた。部屋の中には、夫人の繊細な洗煉された趣味が、隅から隅まで、行き渡っていた。敷詰めてある薄桃色の絨毯にも、水色の窓掩いにも、ピアノの上に載せてある一輪挿の花瓶にも、桃花心木の小さい書架に、並べてある美しい装幀の仏蘭西の小説にも、雪のように白い絹で張りつめられ