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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

た壁にかゝっているクールベエらしい風景画にも炉棚の上の少女の青銅像にも、夫人の高雅な趣味が光っていた。凡ての装飾が、金で光っている丈ではなく、その洗煉された趣味で光っているのだった。

信一郎は、部屋の装飾に、現われている夫人の教養と趣味とに、接すると、昂めよう/\としている反感が、何時の間にか、その鋭さを減じて行くような危険を、感ぜずにはいられなかった。

が、こうした美しい部屋も、彼女の毒の花園なのだ。彼女が、異性を惑わす魅力の一つなのだ。信一郎は、そう云う風に考え直しながら、青色の羽蒲団の敷いてある籐椅子に、腰をおろしていた。窓からは、宏大な庭園が、七月の太陽に輝いているのが見えた。

夫人は、なか/\姿を見せなかった。小間使が氷の入った果実汁を持って来た後も、なか/\姿を見せなかった。

彼は、所在なさに、室内の装飾をあれからこれへと、見直していた。その裡に、ふと三尺とは離れていない卓の上に、眼が付いた。其処には、先刻信一郎が受け取ったのと同じ色のレタアペイパアと、金飾の華やかな婦人持の万年筆とが、置かれていた。先刻の手紙は、恐らくこの桃花心木の小さい卓で書いたのに違いない。