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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
信一郎の心の中の男性に共通な自惚が、ムク/\と頭を擡げようとする。あの先刻受け取った手紙も、こうして見ると、夫人の本心を語っているのかも知れない。夫人を妖婦のように思うのも、みんな自分の邪推かも知れない。彼女は、男性との恋愛ごっこに飽き/\しているのだ。彼女の周囲に、蒐まる胡蝶のような戯恋者に、飽き/\しているのだ。本当に、心をも身をも捨てゝかゝる、真剣な異性の愛に飢えているのかも知れない。世馴れた色男風の男性に、慊たらない彼女は、自分のような初心な生真面目な男性を求めていたのかも知れない。
夫人に対する信一郎の敵意がもう半崩れかけている時だった。
「御免下さいまし。」
銀鈴に触れるような爽かな声と共に、夫人は静かに扉をあけて入って来た。
湯上りらしく、その顔は、白絹か何かのように艶々しく輝いていた。縮緬の桔梗の模様の浴衣が、そのスッキリとした身体の輪廓を、艶美に描き出していた。
わずか四五尺の間隔で、じっとその美しい眸を投げられると、信一郎の心は、催眠術にでもかゝったような、陶酔を感ずるのを、何うともすることが出来なかった。
「まあ! 本当によくいらっしゃいましたこと。