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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

「いや! 貴女のお心が、分らないのではありません。僕を、真のお友達として、多くの男性から選んで下さる。それは僕として、光栄です。が、奥さん! 僕は貴女から選まれると云うことが可なり危険なことであるような気がするのです。僕は、安穏な家庭の幸福で、満足している平凡な人間です。何うか僕を、このままに残して置いて下さい!」

信一郎の語気は、可なり強かった。

「まあ! 何と云うことを仰しゃるのです。妾を、爆弾か何かのように、触ることさえ、お嫌いだと云うのですね。」

夫人は、半ば冗談のように、云おうとしたが、信一郎の心の中の敵意を、アリ/\と感じたと見え、先刻までの夫人とは、丸切違ったような鋭さが、その美しさの裏に、潜み初めていた。

「いや! 奥さん、こんなことを申し上げては、失礼かも知れませんが、僕は貴女に選まれて飛んだ目にあったある男性のことを知っているのです。その男も、真面目な初心な男でしたから、僕が貴女に選まれたのと、同じような意味で、貴女に選まれたのではないかと思うのです。若し、同じような意味で選まれたとすると、その男が飛んだ目に逢ったように、僕も何時かは、飛んだ目に逢いそうです。