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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
はゝゝゝ。」
信一郎は、懸命な勇気を以て、云い終ると調子外れの笑い方をした。彼は烈しい興奮のために、妙に上ずッてしまっていたのである。
夫人の顔色が、一寸変った。が、少しも取り擾す容子はなかった。彼女は、信一郎の顔を、じっと見詰めていたが、憫笑するような笑いを、頬の辺に浮べると、一寸腰を浮かして、傍の卓の上の呼鈴を押しながら云った。
「貴君と妾とは、やっぱり縁なき衆生だったのですわね。やっぱりあれっ切りにして置けばよかったのですわね。妾の思い違いよ。貴君を、スッカリ見損っていたのですわね。貴君の躊躇や、臆病を、妾反対に解釈していたのですわ。妾男性の中で臆病な方が、一等嫌いなのですわ。差し出された女の唇に、接吻を与えるほどの勇気さえないような男性が、一等嫌いなのでございますよ。おほゝゝゝゝ。妾自身、御覧の通のお転婆でございますから、やっぱり強い男性の方が、一等好きなのでございますよ。」
信一郎の攻撃に対する夫人の反撃は、烈しかった。信一郎は夫人の真向からの侮辱に、目が眩んだ。彼は屈辱と忿怒とのために、胸がくらくらするように煮えた。信一郎が口籠りながら何か云おうとしたときに、呼鈴に応じて先刻の小間使が顔を出した。