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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

亡き父の豪奢は、周囲を巡っている鉄柵にも、四辺の墓石を圧しているような、一丈に近い墓石にも偲ばれた。

美奈子は、女中が水を汲みに行っている間、父母の墓の前に、じっと蹲りながら、心の裡で父母の懐しい面影を描き出していた。世間からは、いろ/\に悪評も立てられ、成金に対する攻撃を、一身に受けていたような父ではあったが、自分に対しては、世にかけ替のない優しい父であったことを思い出すと、何時ものように、追慕の涙が、ホロ/\と止めどもなく、二つの頬を流れ落ちるのだった。

女中が、水を汲んで来ると、美奈子は、その花筒の古い汚れた水を、浚乾してから、新しい水を、なみなみと注ぎ入れて、剪り取ったまゝに、まだ香の高い白百合の花を、挿入れた。こうしたことをしていると、何時の間にか、心が清浄に澄んで来て、父母の霊が、遠い/\天の一角から、自分のしていることを、微笑みながら、見ていて呉れるような、頼もしいような懐しいような、清々しい気持になっていた。

美奈子は、花を供えた後も、じっと蹲まったまゝ、心の中で父母の冥福を祈っていた。微風が、そよ/\と、向うの杉垣の間から吹いて来た。