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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
「ほんとうに、よく晴れた日ね。」
美奈子は、やっと立ち上りながら、女中を見返ってそう云った。
「左様でございます。ほんとうに、雲の片一つだってございませんわ。」
そう云いながら、女中は眩しそうに、晴れ渡った夏の大空を仰いでいた。
「そんなことないわ。ほら、彼処にかすったような白い雲があるでしょう。」
美奈子も、空を仰ぎながら、晴々しい気持になってそう云った。が、美奈子の見附けたその白いかすかな雲の一片を除いた外は、空はほがらかに何処までも晴れ続いていた。
「今日は余りいゝお天気だから直ぐ帰るのは惜しいわ。ぶら/\散歩しながら、帰りましょう。」
そう云いながら、美奈子は女中を促して、懐しい父母の墓を離れた。
何時もは、歩き馴れた道を、青山三丁目の停留場に出るのであったが、其日は清い墓地内を、当もなくぶら/\歩くために、わざと道を別な方向に選んだ。
自分の家の墓地から、三十間ばかり来たときに、美奈子はふと、美しく刈り込まれた生籬に囲まれた墓地の中に、若い二人の兄妹らしい男女が、お詣りしているのに気が付いた。
美奈子は、軽い好奇心から、二人の容子を可なり注意して見た。