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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

幾本も立っている卒都婆が、どれもこれも墨の匂が新しかった。

美奈子は、知人の家で、最近に不幸のあった家を、それからそれと数えて見た。が、何うしても兄妹の所属は判らなかった。

妹の方が、人違をしたのかも知れない。そう思うことは美奈子は、何だか淋しかった。やっぱり、此方が思い出せないのだ。その中には、また屹度あの人達と顔を合せる機会があるに違いない。屹度機会が来るに違いない。

「お嬢様! 何方へ行らっしゃるのでございます?」

そう云って呼び止める女中の声に驚いて、美奈子が我に帰ると、美奈子は右に折れるべき道を、ズン/\前へ、出口のない小径の方へと、進んでいるところだった。

「其方へいらっしゃいますと突き当りでございますよ。」

そう言いながら、女中は笑った。

「おや! おや! 妾ぼんやりしていたわ。」

美奈子も、てれかくしに笑った。

二人は何時の間にか霞町の方へ近づいていた。

「霞町から乗って、青山一丁目で乗換えすることにいたしましょうか。」

女中の発議に委したように、美奈子は黙って霞町の方へ、だら/\した坂を降っていた。心の中では、まだ一心に、その妹の顔と兄の顔とを等分に考えながら。