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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

女中は黙って従いて来た。

美奈子の心は、一歩毎にその動揺を増して行った。彼女は墓石と墓石との間から、今にも麦藁帽の端か、妹の方のあざやかな着物が、チラリとでも見えはせぬかと、幾度も透して見た。が、その辺は妙に静まり返って、人気さえしなかった。

彼女が、決心して足を早めて、心覚えの墓地に近づいて行ったとき、彼女の希望は、今朝からの興奮と幸福とは、煙のようにムザ/\と、夏の大空に消えてしまった。

心覚えの墓地は、空しかった。新しい墓の前には、燃え尽きた線香の灰が残っている丈であった。供えた花が、凋れている丈であった。美奈子の心を、寂しい失望が一面に塞してしまった。

せめて墓に彫り付けてある姓名から、兄妹の姓名を知りたいと思った。が、生籬越に見た丈では、それが何うしても、確められなかった。それかと云って、女中を連れている手前、それを確かめるために、墓地の廻りを歩いたりすることも出来なかった。

美奈子は、満されざる空虚を、心の裡に残しながら、寂しくその墓地の前を通り過ぎた。

彼女は、その途端ふと学校で習った『株を守って兎を待つ』と、云う熟語を思い出した。