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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

「忌もまだ明けないだろうって。奥さんにも似合わない旧弊なことを仰しゃるのですね。忌位明けなくったって、いゝじゃありませんか。殊に、奥さんと一緒に行くんだったら、死んだ兄さんだって、冥土で満足しているかも知れませんよ。死んだ青木淳君の瑠璃子夫人崇拝は人一倍だったのですからね。あの男の貴女に対する態度は、狂信に近かったのですからね。」

長髪の画家が、一寸皮肉らしく言った。

夫人は、美しい顔を、少し曇らせたようだったが、直ぐ元の微笑に帰って、

「まあ! 何とでも仰しゃいよ。でも青木さんのいらっしゃらないのは本当よ。論より証拠青木さんは、お見えにならないじゃありませんか。」

「奥さん! そんなことは、証拠になりませんよ。発車間際に姿を現して、我々がアッと云っている間に、汽笛一声発車してしまうのじゃありませんか。貴女のなさることは、大抵そんなことですからね。」

此の内で、一番年配らしい三十二三の夏の外套を着た紳士が、始めて口を入れた。

「御冗談でございましょう! 富田さん。青木さんをお連れするのだったら、そうコソ/\とはいたしませんよ。まさか、貴君が赤坂の誰かを湯治に連れていらっしゃるのとは違っていますから。