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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

夫人が、汽車に乗った後も、青木と呼ばれる青年は姿を現さなかった。若い男達は、やっと夫人の言葉を信じ初めた。

「向うから、お呼び寄せになるか何うかは別として、今日同行なさらないこと丈は、信じましたよ。はゝゝゝゝ。」

小山と云う男が、発車間際になって、そう言った。

「まだそんな負惜しみを、言っていらっしゃるの!」

夫人は、そう言いながら、嫣然と笑って見せた。

美奈子は、何が何だったか、判らなくなった。母の自動車の中の言葉では、青木と云う青年が――墓地で逢った彼の人に相違ない青年が――東京駅で待っているようだった。而も母は、今そのことをきっぱり打ち消している。

美奈子は安心したような、而も失望したような妙な心持の混乱に悩んでいた。

汽車が出るまで、到頭青木は姿を、見せなかった。

四

汽車が動き初めても、青木の姿は、到頭見えなかった。

「それ御覧なさい! 疑いはお晴れになったでしょう!」

夫人は、車窓から、その繊細な上半身を現しながら、見送っている人達に、そうした捨台辞を投げた。

男性達が、銘々いろ/\な別辞を返している裡に、汽車は見る/\駅頭を離れてしまった。