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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
来る道で僕があんなに自動車に乗ることを厭がったのを。はゝゝゝゝゝ。自分ながら、今から考えると、余り臆病になり過ぎていたようです。お母様から後で散々冷かされたのも無理はありません。が、あの時は本当に恐かったのです。妙に気になってしまったのです。ベソを掻きそうな顔をしていたと、後でお母様に冷かされたのですが、本当にあの時は、そんな気持がしていたのです。それに、荘田夫人と来ては、極端に意地がわるいのですからね。僕が恐がれば恐がるほど、しつこく苛めようとするのですからね。本当にあの時の、貴女のお言葉は地獄に仏だったのです。はゝゝゝ。考えて見れば、僕も余り臆病すぎたな。とんだ所を貴女方に見せてしまった!」
青年は、冗談のように云いながらも、美奈子に対する感謝の心だけは、可なり真面目であるらしかった。
「まあ! あんなことなんか。妾、本当に電車に乗りたかったのでございますわ。」
美奈子は、顔を真赤にしながら、青年の言葉を打ち消した。が、心の中はこみ上げて来る嬉しさで一杯だった。
「あの時、僕は本当に貴女の態度に、感心したのです。あの時、露骨に僕の味方をして下さると、僕も恥しいし、お母様も意地になって、あゝうまくは行かなかったのでしょうが、貴女の自然な無邪気な申出には、遉の荘田夫人も、直ぐ賛成しましたからね。