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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

僕は、今まで荘田夫人を、女性の中で最も聡明な人だと思っていましたが、貴女のあの時の態度を見て、世の中には荘田夫人の聡明さとは又別な本当に女性らしい聡明さを持った方があるのを知りました。」

「まあ! あんなことを。妾お恥かしゅうございますわ。」

そう云って、美奈子は本当に浴衣の袖で顔を掩うた。処女らしい嬌羞が、その身体全体に溢れていた。が、彼女の心は、憎からず思っている青年からの讃辞を聴いて、張り裂けるばかりの歓びで躍っていた。

山の端を離れた月は、此の峡谷に添うている道へも、その朗かな光を投げていた。美奈子はつい二三尺離れて、月光の中に匂うている青年の白皙の面を見ることが出来た。青年の黒い眸が、時々自分の方へ向って輝くのを見た。

二人は、もう一時間前の二人ではなかった。今まで、遠く離れていた二人の心は、今可なり強い速力で、相求め合っているのは確かだった。

二人は、また黙ったまゝ、歩いた。が、前のような固くるしい沈黙ではなかった。黙っていても心持丈は通っていた。

「もっと歩いても、大丈夫ですか。」

木賀を過ぎて宮城野近くなったとき、青年は再び沈黙を破った。