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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

彼女は止まって、而して忍ぶべく決心した。彼女の苦しい辛い境遇に堪えようと決心した。

青年の心が、美奈子にハッキリと解ってからは、彼女は同じ部屋に住みながら、自分一人いつも片隅にかくれるような生活をした。

青年と母とが、向い合っているときなどは、彼女は、そっと席を外した。その人から、想われていない以上、せめてその人の恋の邪魔になるまいと思う、美奈子の心は悲しかった。

そう気が付いて見ると、青年の母に対する眸が、日一日輝きを増して来るのが、美奈子にもありありと判った。母の一顰一笑に、青年が欣んだり悲しんだりすることが、美奈子にもありありと判った。

が、それが判れば判るほど、美奈子は悲しかった。寂しかった。苦しかった。

一人の男に、二人の女、或は一人の女に、二人の男、恋愛に於ける三角関係の悲劇は、昔から今まで、数限りもなく、人生に演ぜられたかも判らない。が、瑠璃子と青年と美奈子との三人が作る三角関係では、美奈子丈が一番苦しかった。可憐な優しい美奈子丈が苦しんでいた。

「美奈さん! 何うかしたのじゃないの?」

美奈子が、黙ったまゝ、露台の欄干に、長く長く倚っているときなど、母は心配そうに、やさしく訊ねた。