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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

が、そんなとき、

「いゝえ! どうもしないの。」

寂しく笑いながら答える、小さい胸の内に、堪えられない、苦しみがあることは、明敏な瑠璃子にさえ判らなかった。

青年も、美奈子が、――一度あんなに彼に親しくした美奈子が、また掌を飜すように、急に再び疎々しくなったことが、彼の責任であることに、彼も気が付いていなかった。

夕暮の楽しみにしていた散歩にも、もう美奈子は楽しんでは、行かなかった。少くとも、青年は美奈子が同行することを、厭がってはいないまでも、決して欣んではいないだろうと思うと、彼女はいつも二の足を踏んだ。が、そんなとき、母はどうしても、美奈子一人残しては行かなかった。彼女が二度も断ると母は屹度云った。

「じゃ、妾達も行くのを廃しましょうね。」

そう云われると、美奈子も不承々々に、承諾した。

「まあ! そんなに、おっしゃるのなら参りますわ。」

美奈子は口丈は機嫌よく云って、重い/\鉛のような心を、持ちながら、母の後から、従いて行くのだった。

が、ある晩、それは丁度箱根へ来てから、半月も経った頃だが、美奈子の心は、何時になく滅入ってしまっていた。

母が、どんなに云っても、美奈子は一緒に出る気にはならなかった。